姉崎神社
房総往還3姉崎～木更津
平成23年4月24日
―日本武尊伝説姉﨑神社・蔵波で途切れた旧道・森の中坂戸神社・夕暮木更津―
（平成23年12月3日更新）
【本日の行程 街道距離 17km】
姉崎（姉﨑神社・妙経寺（おたけ騒動）・鶴牧藩陣屋跡・八坂神社（大銀杏））（8時46分）→久保田（富士岳神社・水神宮・八幡神社）（11時40分）→蔵波（長浦）（蔵波城址・密蔵院・八幡神社・愛宕神社・地蔵尊・三界万霊塔・干拓記念碑）（12時50分）→今井（道標兼三界万霊塔・神明神社）（14時40分）→いぼとり地蔵・大六天神社・おふご森（15時20分）→奈良輪（袖ヶ浦）（奈良輪神社・喜光院・海蔵院・坂戸神社の森）（15時50分）→木更津（17時30分）
・8時46分、ＪＲ内房線姉ヶ崎駅に降り立った。一日乗り放題のホリデーパス2300円が大人の休日倶楽部会員だと2000円になる。
・「姉﨑神社」の扁額のかかる鳥居の横に「式内縣社姉﨑神社」と書かれた石標がある。鳥居をくぐると左手に霊泉御瀧水がある。163段の石段を上がると、社殿の前に茅の輪がある。一歩の理解では茅の輪くぐりは6月30日の夏越の祓いの際行われるはずなので、奉仕活動として掃除をしていた女性に聞いてみたら、年中置かれているとのことだった。姉﨑神社は、景行天皇40年（110）日本武尊が東征の折、舟軍の航行安全を祈願し、風神志那斗弁命を祀ったのが始まりという。源頼朝が武運長久の祈願をしたことから流鏑馬の神事が行われていたが現在は行われていない。境内には松が一本もなく、氏子の家では正月に門松を立てない。御祭神志那斗弁命が「待つ身はつらい」と云われたことから｢待つ｣に通じる｢松｣を忌むようになった。松の代わりにサカキを飾るのだそうだ。東京府中の大国魂神社で同じような風習があると聞いていた一歩は、この点に興味を持ったので、さらに歴史の道調査報告書で調べてみた。御祭神志那斗弁命は、約3km北にある島穴神社に祀られた志那都比古命の妃にあたる。伝承では妃は夫の帰郷を待ち続けたが、ついに夫は妃のもとに帰らず、妃はこれを恨んだという。夫を「待つ」と「松」の読みが同じことから、同神社では松の木を避け、境内は杉の古木だけだそうだ。現在でも正月には門松の代わりにサカキを立て、婚礼には松の模様の衣服は着用しないそうだ。先ほどの女性に聞いても、やはり門松には松を使わずサカキを使うという返事が返ってきた。境内に「延喜式内上總一位宮姉﨑神社」、「旧姉﨑村鶴巻藩壹万五千石城下三十六ヶ村親村」、「義僕市兵衛記」と題する大きな案内石碑がある。義僕市兵衛は、この先妙経寺に墓があるが、ここには荻生徂徠、林大学頭両大家にも賞揚されたと書かれている。
姉崎神社
・「姉ヶ崎駅入口」交差点に戻り、西南に向かって歩き始めた。すぐ先の交差点を、街道を離れて左折すると、妙経寺がある。門に向かって右手に文政七年（1824）建立の大きな題目塔、左手に享保二十一年（1736）の題目塔がある。本堂に向かって右手に「孝子五郎碑」がある。また、右手の墓地の入口付近に戊辰義士戦死者（慶應四年閏四月七日）の「義軍墓」を見付けた。しかし、歴史の道調査報告書にある「おたけ騒動」にかかわる義僕市兵衛の墓が見付からない。境内に居た二人の人に聞いてもわからない。本堂に向かって左手の墓地を探し回り、ようやく齋藤家の広い墓地の中に宝井基角の歌碑とともに「市兵衛の墓所」を見付けた。「平成十一年七月盆 拾六代市兵衛 齋藤茂建立」の「市兵衛並各名霊菩提」碑がある。歌碑には「基角 起きて聞けこのほととぎす市兵衛記」とある。「おたけ騒動」というのは、生類憐れみの令の頃の元禄八年（1695）、猪、鹿の被害に困っていた姉崎村等七ヶ村の名主たちが相談して猪、鹿狩りをした際、深城村の九左衛門の妻おたけを鹿と間違えて射ってしまった。その責任を取って配流となった主人の名主家で働いていた市兵衛は、主人の家族に尽くすとともに主人の身代わりになるために江戸まで何度も足を運び嘆願した。宝永3年（1706）主人たちは許された。おたけ騒動の市兵衛の美談については戦前の教科書にも取り上げられたほか、村上元三が『上総風土記』に小説にしている。既に絶版になっているが、一歩は早速図書館で借りて読んだ。
義僕市兵衛の墓
・房総往還に戻って、歩き始めた。「姉崎本町」バス停の先、「姉崎小学校」の矢印に従って、街道を離れ、左に入って行くと、大手橋の先に姉崎小学校がある。ここは鶴牧藩陣屋跡だ。文政十年（1827）、水野忠韶はここに陣屋を置き、鶴牧藩と称したそうだ。小学校に向かって右手に藩校修来館があったそうで、歴史の道調査報告書には白い標柱があると書かれているが、それらしいものは見当たらないし、陣屋跡の名残は何もない。と、思って念のためインターネットで検索してみると、小学校の中に陣屋跡の白い標柱があるようだし、道路を隔てて向かいに藩校跡の白い標柱があるようだ。見落としたのは残念だ。
姉崎小学校（鶴牧藩陣屋跡）
・また、街道に戻って、その先を行く。右手街道沿いに稲荷大明神の小さな祠がある。その前に力石が幾つか並んでおり、「七拾五貫」と書かれている石が一番重そうだ。
稲荷大明神（手前に力石）
・「姉崎橋」を渡ると、その先の交差点の角の左手に八坂神社がある。景行天皇四十年日本武尊東征の時祈願あらせられたと伝える。文化九年（1812）建立の鳥居をくぐってすぐの左手に樹齢約700年の見事な大銀杏がある。圧倒される迫力だ。社殿の前の燈籠は天明六年（1786）の建立、手水鉢は江戸伊勢町の奉納だ。境内に延宝弐年（1674）という古い三猿の彫刻のある「奉新造立山王権現結衆二世安楽祈所」碑がある。
八坂神社（左は樹齢約700年の大銀杏）
・八坂神社の裏山が椎津城跡で城山と呼ばれているようだ。築城者は不明だが、史料には椎津三郎の名が見え、真
瑞安寺 徳川義軍之墓
・瑞安寺の向かいに「千葉県指定無形民俗文化財 椎津のカラダミ もと万灯出発の地」と題する案内板がある。「推津のカラダミは、市原の代表的中世城郭椎津城跡の麓、椎津地区で毎年八月十五日に行われている盆行事です。早朝、乞食坊主や乞食役の団子貰いで行事は始まります。夕方、瑞安寺で伝説上の椎津城主・椎津小太郎や水難者などの供養を行い、宵からジャラボコと呼ばれる万灯（山車）が練り歩きます。最後に、生きた人が入った棺を担いだ仮の葬列、カラダミの行列が万灯と逆のコースをたどって瑞安寺に入ります。」とある。「遺骸を伴わない葬儀カラダミ（空荼毘の訛りか）は、類例の少ない珍しい民俗行事」で、「カラダミの由来には、水難者などの供養に椎津城落城の伝説が重ね合わされている」ようだ。
「千葉県指定無形民俗文化財 椎津のカラダミ」案内板
・左手に山、右手に内房線の線路がある道を暫く行く。右手には近代的な工場の高い煙突が見える。
・袖ヶ浦市に入る。
・右手に「馬場踏切」がある手前、左手高台に富士嶽神社がある。急坂を登ると右手に出羽三山碑が数基並んでいる。石段を上り詰めた所に小さな祠があるのが富士嶽神社らしい。
富士嶽神社
・街道に戻って右手の「馬場踏切」を渡った所に復元された「弘法清水」がある。弘法大師が杖を立てたところ水が沸いたという故事に因む。その奥に水神宮と金比羅宮があり、横には久保田漁協の解散記念碑がある。
弘法清水 水神宮
・やがて進行左手に小高い山が見え、右手が長浦駅となる。この小高い山は、蔵波城址で、今は手前が削られているが、江戸時代は波打ち際まで舌状丘陵の先端となっており、房総往還は波打ち際を通っていたそうだ。従って街道は現在の長浦駅より海側になるが、ほとんど道が消滅しているため、県道287号を歩かざるを得ない。
長浦駅と蔵波城址
・その小高い山には密蔵院と八幡神社、さらに山頂には愛宕山があるので、行ってみた。途中左手蔵波会館には「蔵波漁業組合解散記念碑」がある。歴史の道調査報告書によると密蔵院には家康の家来本多重次の墓があるという伝承があるが疑わしいと書かれている。本多重次といえば「一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ」で有名だが、一歩が水戸道中を歩いたとき得た知識では、晩年は秀吉の勘気に触れて蟄居を命ぜられ、取手で過ごし、井野で没したはずだ。密蔵院境内には首の欠落した六地蔵と宝永七年（1710）の六十六部石塔等の石塔群がある。
密蔵院と石塔群
・八幡神社には享保七年（1722）の手水鉢がある。
八幡神社
・その上の愛宕山に通じる石段が危険で立ち入り禁止なので、右手の「出羽三山供養塚参道」の坂を上る。「蔵波小鳥の森」の中に出羽三山供養塚と愛宕山の祠がある。愛宕山の祠の前の手水鉢は享和二年（1802）と刻まれ、寛延元年（1748）の庚申塔の彫刻も見事だ。
愛宕山と寛延元年（1748）の庚申塔
・県道287号に戻って、次の信号を右折し、内房線の「蔵波踏切」を渡り、二つ目の道の右角に、三基の地蔵尊と力石と道標だったと思われる石塔の下部がある。この辺り、昔の街道が舌状丘陵の波打ち際を通っていたはずで、地蔵尊の前の道を東の方に少したどってみたが、この道の一部がそうだったのだろう。
蔵波の地蔵尊・力石・道標
・地蔵尊の海側に少し行った公園の海側の端に三界万霊塔、小さな「龍宮神社」の石祠、干拓記念碑、海岸大鳥居跡碑、日比友好の井戸がある。
三界万霊塔と龍宮神社 干拓記念碑・海岸大鳥居跡碑・日比友好の井戸
・海岸大鳥居跡は、江戸時代に蔵波八幡神社の神輿浜降りのための鳥居として建てられた鳥居の跡だ。日比友好の井戸は、平成２年にフィリピンからの研修生を招聘し上総堀の技術を伝えたことを記念するものだ。
日比友好の井戸
・地蔵尊の角の西には道がないので、旧道はこの先途絶えていると判断して、もとの県道287号の交差点に戻った。
・すぐ蔵波橋を渡る。
・ビジネス旅館浜戸屋の向かい、街道左手の坂道は御輿の坂、あるいは巡礼坂と呼ばれるようだ。その坂の登り口に地蔵尊が二基ある。
神輿の坂（巡礼坂）と入口の地蔵尊
・約1km程先、街道は、県道287号より海側を通っていたとのことなので、右手小澤商事コンクリート工場の見える所を右折して「勝下（かつおり）踏切」を渡った。
今井への道
・大きな自動車道の高架下をくぐる。
・左手、今井の集落になり、左に曲がる角に道標を兼ねた三界万霊塔があるはずだ。ところが、左角を注意しながら行ってもなかなか見当たらない。地図を見ながらいよいよこの辺りかと見当を付けて左に入ってみると、もう一本南の道が西に突き当たるＴ字路に三界万霊塔を見付けた。文化元年（1804）の建立で、左側面には「左きさらす道」、裏面には「是より右江戸道」とある。
今井の道標兼三界万霊塔
・その近く、これまで歩いてきた道の一本南の道を東に少し戻る方向に神明神社がある。手水鉢には天明元年（1781）に江戸神田白壁町奥州屋などが寄贈したことが記されている。社殿の奥に庚申塔等の石仏石塔群がある。
神明神社（右は境内の手水鉢）
・さて、ここで房総往還は、これまで歩いてきた道なのか、それとももう一本南の、この神明神社の鳥居の前を通る道なのかの疑問が生じた。もう一本南の道の方を、東に遡ってみた。すると、すぐ先で道が途切れてしまう。と、いうことは、やはり一歩が歩いてきた水路沿いの道が房総往還であろうと思う。それでも今井に入ってからどこかで南に曲がって、一本東を通っていたという可能性も否定できない。近所の人に聞いてもわからない。
これまで歩いてきた道（左）と神明神社前の道（右）
・腑に落ちないながらも、三界万霊塔のあるＴ字路に戻る。南に行くとすぐ先カーブミラーのある角を右折する。この辺りは、いかにも旧道らしい雰囲気がある。通りすがりの女性に「この道は昔からの道ですか。旧道らしい雰囲気がありますね。」と聞いてみたら「雰囲気はありますが、消防車も入れなくて・・・」という返事が返ってきた。三界万霊塔から東の道は、やはりわからないとのことだ。
今井の旧道
・旧道らしい雰囲気のある道は、その先国道16号の高架下をくぐってすぐに左折、坂を上って、内房線を越える歩道を通って、内房線の反対側に出る。ここは道路が複雑に交錯するが、県道87号に入って、西に向かう。
いぼとり地蔵
・すぐ先左手高台の森の中に「大勒天宮」の小さな祠がある。境内に「おふごの森ちょうけん塚（長見塚）」の石碑がある。寛文八年（1668）に書かれた奈良輪村絵図に奈良輪村と蔵波村との浦境が描かれており、昭和２０年浦境の問題が起きたとき、この絵図によって海の境が決定されたという。歴史の道調査報告書によると、「おふごの森」という名前の由来について、奈良時代に壬申の乱に敗れた弘文天皇が上総へ逃れ、その皇子の一人福王丸がこの地に居を構え、のち死去したので墓をつくったという伝説がある。
おふごの森（大勒天宮・長見塚）
・奈良輪に入って、暫くは、味気ない自動車道の歩道を行く。
金三の八幡様
・左手の坂道を上って行くと、左手の森の中に急な石段があり、上り詰めると奈良輪神社（福王宮）がある。祭神は福王丸で、本堂の扁額には「福王宮」と書かれている。境内に元禄十一年（1698）の庚申塔などがある。
奈良輪神社（福王宮）と境内の元禄11年の庚申塔
・街道に戻ってその先、喜光院がある。右手に薬師堂があり、その前に立つ地蔵尊のうち一番背の高いのは寛文八年（1668）という古いもので、他の地蔵尊もいずれも古く、その中では天和元年（1681）のものが一番古い。
喜光院（左）と同薬師堂前の地蔵尊（右）
・右手の民家の蔵の折れ釘に梯子が横に架かっているのを見付けた。
蔵の折れ釘に梯子
・その先、左手に海蔵院那谷寺がある。境内の六道地蔵菩薩は、正徳三年（1713）という古いものだ。
海蔵院那谷寺と境内の六道地蔵菩薩
・まもなく袖ヶ浦駅入口交差点になる。歴史の道調査報告書によるとこの南西の「まつや」付近に奈良輪宿の問屋場があったというが、今は全く面影がない。
・その先左手に旧道があるので、入って行く。しかし、この道は昭和小学校と隣接する中央図書館で途切れる。
袖ヶ浦駅入口の先の旧道（左）
・中央図書館の南の高台に坂戸神社があり、坂戸神社の森は、千葉県指定天然記念物になっている。
坂戸神社の森
・石段を上り詰め、鬱蒼とした森の中の参道の奥にある坂戸神社本殿は、唐破風・千鳥破風屋根の見事な建築だ。
坂戸神社 拝殿（左）と本殿（右）
・街道に戻って中央図書館の西の小道を暫く行き、浮戸川を「中川原橋」で渡る。
中川原橋（浮戸川）
・中川原橋を渡って右折してすぐ左折する右角に馬頭観世音がある。
馬頭観世音
・突き当たりのＴ字路に地蔵堂がある。
Ｔ字路の地蔵堂
・Ｔ字路を右折して坂田市場交差点を左折、小櫃川を小櫃橋で渡る。
小櫃橋（小櫃川）
・小櫃橋を渡って左折して旧道に入る。左手に藁でできた人形のようなものが竹竿にぶら下がっており、そばに水天神社がある。
藁でできた人形（左） 水天神社（右）
・初崎バス停で右からの県道270号と合流してすぐ、木更津市に入る。
木更津市へ（前方に東京湾アクアライン）
・その先の高架の道は東京湾アクアラインで、右方向に「川崎方面」と書かれた表示がある。一歩はまだ、アクアラインを一度も通っていないので、なるほど、川崎から海の中を通ってここまで通じているのかと、感慨深かった。
・暫く県道270号を行く。
・右手岩根駅のある「岩根駅入口」交差点の先の高柳の横断歩道の所で、左に旧道があるので入って行く。歴史の道調査報告書の房総往還Ⅰではこの辺りから西山にかけて左手に道が続くように書かれている。しかし、房総往還Ⅱでは県道270号が房総往還になっているので、迷うところだ。いずれにしても左手の旧道はすぐ途切れてしまう。
高柳の旧道
・県道270号に戻って暫く行くと、「ガス会社前」バス停の先に右に入るいかにも旧道っぽい道があるので、また、迷いつつ右手の道を選んだ。左手の県道270号の方がバイパスと思えたからだ。
畳ヶ池
・そのまま真っ直ぐ西に向かい、本日の街道歩きは、JR内房線の所までとし、左折して木更津駅に向かった。
